赤外線…周波数が低い、電波より波長の短い電磁波の事。IR
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#赤外線 - Wikipedia
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赤外線
赤外線(せきがいせん)は、可視光線の赤色より波長が長く(周波数が低い)、電波より波長の短い電磁波のことである。ヒトの目では見ることができない光である。分光学などの分野でIR(infrared) と略称される。
赤外線の種類[編集]
赤外線は赤色光よりも波長が長く、ミリ波長の電波よりも波長の短い電磁波全般を指し、波長ではおよそ 0.7μm- 1mm(=1000 μm) に分布する。
さらに、波長によって、近赤外線、中赤外線、遠赤外線に分けられる。それぞれの波長区分は学会によって若干異なり、下記の区分はその一例である(例えば天文学では10 μmくらいまでが中赤外線として扱われることが多い)。
一般的分類[編集]
近赤外線[編集]
近赤外線は波長がおよそ0.7 - 2.5 μmの電磁波で、赤色の可視光線に近い波長を持つ。性質も可視光線に近い特性を持つため「見えない光」として、赤外線カメラや赤外線通信、家電用のリモコンなどに応用されている。
中赤外線[編集]
中赤外線は、波長がおよそ2.5 - 4 μmの電磁波で、近赤外線の一部として分類されることもある。赤外分光の分野では、単に赤外と言うとこの領域を指すことが多い。波数が1300 - 650 cm−1の領域は指紋領域と呼ばれ、物質固有の吸収スペクトルが現れるため、化学物質の同定に用いられる。
遠赤外線[編集]
遠赤外線は、波長がおよそ4 - 1000 μmの電磁波で、電波に近い性質も持つ。赤外線は物体からは必ず放射されていて、この現象を黒体放射と呼ぶ。高い温度の物体ほど赤外線を強く放射し、放射のピークの波長は温度に反比例する。室温20 ℃の物体が放射する赤外線のピーク波長は10 μm程度である。熱線とも呼ばれる。
なお、科学用語としての遠赤外線とは全く関係のない商品等で「遠赤外線の効能」を謳うものが多数存在するが、それらは科学的な根拠のない疑似科学的なものであり、注意が必要である。
その他の分類[編集]
帯域名 波長 光エネルギー
近赤外線(Near-infrared,NIR) 0.75-1.4 m 0.9-1.7 eV
短波長赤外線(Short-wavelength infrared,SWIR) 1.4-3 m 0.4-0.9 eV
中波長赤外線(Mid-wavelength infrared,MWIR) 3-8 m 150-400 meV
長波長赤外線(Long-wavelength infrared,LWIR)
熱赤外線(Thermal infrared,TIR) 8 15 m 80-150 meV
遠赤外線(Far infrared,FIR) 15-1,000 m 1.2-80 meV
特性[編集]
赤外線は大気に吸収され、その一部が地上に届く。
地球放射の一部と太陽放射(0.8 μm 以下。幅が狭いため正確に表現できていない)のスペクトル。青い部分の上下幅が広いところが大気の窓。横軸(Wavelength)が波長、縦軸(Transmittance)が放射の透過率を表す。
水は遠赤外線よりも近赤外線を強く吸収するが、いずれの波長も数mm以上は透過しない[1]。「遠赤外線は体の内部まで浸透し内側から温める」と言われることがあるが、間違いである[2]。
水に対する吸光度は中赤外線および遠赤外線において高く、したがって生体組織(特に、水分を多く含んだ組織)に対しては浅い部分でその多くが吸収される[3]。このような波長のレーザである炭酸ガスレーザ(λ=10.6 μm)やEr:YAGレーザ(λ=2.94 μm)は生体組織の切開や蒸散(いずれも凝固に比べ高いエネルギー密度や位置選択性が要求される)に利用されている。
発見[編集]
1800年、イギリスのウィリアム・ハーシェルにより赤外線放射が発見された。彼は太陽光をプリズムに透過させ、可視光のスペクトルの赤色光を越えた位置に温度計を置く実験を行った。この実験で温度計の温度は上昇し、このことから彼は、赤色光の先にも目に見えない光が存在すると結論づけた。この発見に刺激され、翌1801年にはドイツのヨハン・ヴィルヘルム・リッターにより紫外線も発見されている。
1850年にはイタリアのマセドニオ・メローニが、赤外線には反射、屈折、偏光、干渉、回折がみられ、その性質は可視光と同じであることを実験によって示した。
用途[編集]
熱源として[編集]
カーボンヒーター。ピーク波長は遠赤外線領域で、輻射の大部分が赤外線である。
遠赤外線(熱線)の放射は対象物に熱を与える効果があり、暖房や調理器具などとして利用されている。多くの暖房器具は輻射を利用しているが、暖房効果における輻射の比率には大小がある。主に輻射による暖房器具として、こたつ、電気ストーブなどがある。燃焼を使う器具は温度が高いため可視光の比率が多いが、温度の低い触媒燃焼を利用する器具もある。輻射を利用した調理器具としては電気オーブンやオーブントースターが挙げられる。また塗装の行程で塗装面に熱を与えて硬化させる場合には輻射を利用した専用のヒーターが用いられる。
浄水器や燃費改善剤など、遠赤外線の効果を謳う商品の中には、科学的に実証されていない疑似科学にすぎない商品もある。
センサとして[編集]
詳細は「赤外線センサ」を参照
近赤外線と遠赤外線は、センサ目的に各分野で広く用いられている。
赤外線は可視光に比べて波長が長いため、散乱しにくい性質を利用して、煙や薄い布などを透過して向こう側の物体を撮影するために用いることができる。また目に見えないという特性もあるため、夜間に被写体を近赤外線光源で照らしても被写体に気付かれることなく撮影することができることから、警備・防衛用途や、野生動物の観察・研究用途にも広く用いられている。これらの用途には、主として近赤外線が用いられる。
一方、あらゆる物体はそれ自身の温度によった遠赤外線を出している(黒体放射)ため、遠赤外線センサは、光源が無い場所でも目標を視認することが可能となる。また黒体放射においては、温度に応じて異なる周波数の赤外線が放射されることから、対象物の温度を検知できる。これを利用した技術がサーモグラフィーである。
リモートセンシング衛星[編集]
詳細は「リモートセンシング衛星」を参照
地表や海面の温度を調べるのはもちろんのこと、植生の状況をモニタリングするために近赤外域や中間赤外域(短波長赤外域)が使用される。植生は太陽光の可視域の反射が低く,近赤外域の反射が非常に強いという分光反射特性をもつ。可視赤色域と近赤外域を用いた植生指数が多数提唱されている。
赤外線天文学[編集]
詳細は「赤外線天文学」を参照
赤外線で星や銀河等を観測することにより、他の波長の電磁波ではわからない現象を調べることができる。例えば我々の銀河系中心方向には視線方向に、可視光を吸収してしまう星間物質があるため可視光線では観測できないが赤外線を検出することにより、銀河中心付近の星の分布などを調べることができる。
通信手段として[編集]
赤外線通信 (D901iS)
「IrDA」も参照
近距離赤外線通信規格IrDAの携帯電話への普及により、赤外線通信が一般に認知され、使用されるようになった。電波で通信する方式に比べて、信号が空間的に広がりにくく(回折を起こさず)、障害物があると通信できない欠点はあるものの、それは第三者に傍受されにくいというセキュリティ上の大きな長所でもある。
ザウルスなどの以前の機種では、ASK方式が用いられていた。
また、屋外で使う自動車用ドアロック・ワイヤレスリモコンは周囲の明るい光が妨害源となり赤外線通信には不向きであるので電波を利用するものが多いが、強烈な光に晒されることのない屋内で使われる家電製品のワイヤレスリモコンは電磁ノイズの影響を受けない赤外線を利用しているものがほとんどである。
音の伝送[編集]
音のワイヤレス伝送を行う場合に、電波を使わずパルス変調した赤外線を光源から発信し、受光器で受信して復調する機器がいくつか存在する。家庭用ではヘッドフォンで使用され、業務用ではカラオケのマイクロフォンや同時通訳を聞く際のレシーバに使用されている。
電波と異なり壁を透過しないので外部との混信や盗聴の心配が少なく、マルチチャンネル化も容易で利便性が高いが、一方で送受信器の間に大きな物体があるなど赤外線が届かない条件もしばしば起きるため、使用場所の形状によっては送受信器のうち固定器側について数を増やしたり、人や物に遮られない高所に設置するなどの検討が必要になる。また移動器側も衣服のポケットに入れたり、手で握るなど赤外線を遮らないよう注意する必要がある。受信機に太陽光などの強力な熱線が当たると受信センサーの赤外線が飽和して伝送が不調になる場合もある。
静脈認証[編集]
生体認証の一方式として使用される。皮膚への浸透深度は近赤外線域では数mm(最大6 mm)である。短波長側(0.7 - 0.8 μm)の近赤外光は静脈認証[4]や医療用の一部の検査装置[5]などに利用される。静脈認証は静脈血内のヘモグロビンが近赤外光を強く吸収する性質を利用している[6]。
赤外分光法[編集]
詳細は「赤外分光法」を参照
全ての分子にはある決まった周波数の電磁波を吸収する性質がある。これを赤外線の領域で調べる手法が赤外分光法(IR法) であり、分子内部における原子の振動状態を通じて物質の構造に関する知見を得ることができる。赤外領域の基準振動がスペクトル分析の基本であるが、吸収が大きすぎるため、近赤外領域にある、吸収の少ない倍音、三倍音を観測することもある。近赤外の分光法は赤外に比べ感度が極めて低く、そのため利用が遅れていたが、分析手法の発達により、非破壊検査・測定に利用されるようになった。
熱紋[編集]
詳細は「:en:Infrared signature」を参照
熱紋とは熱源から放射される赤外線の固有の波長分布や形状を指し、熱紋をデータベースと照合することにより熱源を同定することができる。
出典[編集]
[ヘルプ]
^ 赤外線の話- 図5 膜厚が異なる水膜の赤外吸収スペクトル
^ 社団法人遠赤外線協会「遠赤外線とは?・遠赤外線技術」
^ 日本生体医工学会監修「MEの基礎知識と安全管理 改訂第5版」p51
^ マイクロソフト Enterprise Web「IT先進企業 日立製作所」
^ 近赤外線トポグラフィによる脳機能計測 (PDF)(一例)
^ 実用化が進む生体認証技術 (PDF)- 静脈認証技術とその適用事例(沖電気)
関連項目[編集]
近赤外線分光法
赤外線天文学
放射計
赤外線センサ
赤外線計測
赤外線写真
黒体
プランクの法則
ヴィーンの変位則
シュテファン=ボルツマンの法則
レイリー・ジーンズの法則
キルヒホッフの法則
佐久間=服部方程式(en)
量子力学
グローブ温度
色温度
カーボンナノチューブ黒体
非電離放射線
表・話・編・歴
電磁波
← 長波長 短波長 →
電波-マイクロ波-赤外線-可視光線-紫外線-X線-ガンマ線-電磁放射線
紫外線
近紫外線(UV-A - UV-B - UV-C) - 遠紫外線(UVU) - 極端紫外線
可視光線
赤-橙-黄-緑-青-藍-紫
マイクロ波
Lバンド - Cバンド - Sバンド - Xバンド - Kuバンド - Kバンド - Kaバンド - Qバンド - Vバンド - Wバンド
電波
テラヘルツ波 - ミリ波(EHF) - センチメートル波(SHF) - 極超短波(UHF) - 超短波(VHF) - 短波(HF) - 中波(MF) - 長波(LF) - 超長波(VLF) - 極超長波(ULF) - 極極超長波(SLF) - 極極極超長波(ELF)
表・話・編・歴
放射線(物理学と健康)
主要記事
非電離放射線
音響放射力(英語版)-赤外線-光-マイクロ波-電波-紫外線-電磁波-熱放射
電離放射線
自然放射線-環境放射線
単位
吸収線量
グレイ-シーベルト-ラド-レム-レントゲン-カーマ-シーマ-積算線量-等価線量-実効線量
放射能
ベクレル-キュリー-ラザフォード-壊変毎分-比放射能-マッヘ
関連項目
SI接頭辞-物理量
測定
測定器
線量計-電離箱-霧箱-泡箱-原子核乾板-比例計数管-ガラス線量計-フィルムバッジ-固体飛跡検出器-熱ルミネッセンス線量計-サーベイメーター-ガイガー=ミュラー計数管-シンチレーション検出器(シンチレータ-光電子増倍管-硫化亜鉛)-半導体検出器(シリコンドリフト検出器-マルチチャンネルアナライザ)-ホールボディカウンター
確率・統計
ポアソン分布-コーシー分布-ガウス分布-推計統計学-ポアソン過程-指数分布
放射線物理学
原子と原子核
原子と原子核(元素-原子-電子-原子核-素粒子-長さの比較)-原子模型(トムソンの原子模型-ラザフォードの原子模型-ボーアの原子模型)-核子(陽子-中性子)-核種(質量数-同位体-同余体-同重体-同中性子体-中性子過剰核-核図表-天然存在比)-質量とエネルギー(原子量-アボガドロ定数-質量数-原子質量単位-比重-比放射能-質量欠損-特殊相対性理論-結合エネルギー-強い相互作用-弱い相互作用)- 原子・原子核の状態(エネルギー準位-基底状態-励起状態-核異性体-魔法数)
電離放射線の種類
電磁放射線(X線-ガンマ線)-粒子放射線(アルファ線-ベータ線-中性子線(高速中性子)-陽子線-重陽子線-重粒子線-核分裂生成物)
放射性崩壊
放射性崩壊の種類
崩壊モード-アルファ崩壊(ガイガー・ヌッタルの法則-トンネル効果)-ベータ崩壊(電子捕獲-ベータプラス崩壊-二重ベータ崩壊-二重電子捕獲)-ガンマ崩壊-自発核分裂-核異性体転移
放射性崩壊の速度
半減期-崩壊定数-平均寿命-指数関数的減衰
原子核崩壊の図式化
壊変図式-原子核崩壊図
崩壊系列
放射平衡-トリウム系列-ウラン系列-アクチニウム系列-ネプツニウム系列
核反応
原子核反応-反応断面積-核分裂反応(核分裂連鎖反応-臨界量-毒物質)-核融合反応-核破砕反応-中性子捕獲-放射化-放射化分析-誘導放射能
放射線と物質との相互作用
放射線分解-ラジカル-ホットアトム-放射線遮蔽学-光子との反応(光電効果-コンプトン効果-対生成-対消滅-光核反応)-荷電粒子との反応(制動放射-チェレンコフ放射-シンクロトロン放射)-中性子線との反応(弾性散乱-非弾性散乱-中性子捕獲-核分裂反応)
放射性物質
核種-放射性同位体-人工放射性元素-自然放射能-超ウラン元素-アクチノイド-核分裂性物質-崩壊生成物-放射性廃棄物-放射性降下物-身元不明線源-元素合成-同位体効果
データベース
主要な核種の物理的・生物学的半減期の一覧-放射能の比較-半減期の比較-比放射能一覧-核種の一覧
放射線と健康
基本概念
放射線生物学-放射線医学-放射線被曝-保健物理学-レーザーの安全性(英語版)
放射線の利用
放射線源(密封線源-非密封線源)-放射線療法(レントゲン(X線撮影)-ポジトロン断層法 (PET)-コンピュータ断層撮影(CTスキャン))-後方散乱X線検査装置-食品照射-原子力電池
法律・資格
放射線管理区域-放射線管理手帳-放射線取扱主任者-技術士原子力・放射線部門-原子炉主任技術者-核燃料取扱主任者-エックス線作業主任者-ガンマ線透過写真撮影作業主任者-電離放射線障害防止規則-放射線同位元素等による放射線障害の防止に関する法律-核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律
放射線と健康影響
放射線障害-急性放射線症候群-低線量被曝問題-ホットパーティクル-バイスタンダー効果-ペトカウ効果-ベルゴニー・トリボンドーの法則-ホルミシス効果-原爆ぶらぶら病-原爆症-チェルノブイリ・エイズ
関連人物
ユーリ・バンダジェフスキー-ワシリー・ネステレンコ-クリストファー・バズビー-アーネスト・スターングラス-レオ・キンレン-トーマス・トゥーイ-高木仁三郎-小出裕章-中川恵一-山下俊一
放射能汚染
放射性降下物-核の冬-原子力事故-風下住民-集団積算線量-汚い爆弾-放射能兵器-原発震災-臨界事故-環境半減期-除染-放射能汚染対策-CBRNE
放射能被害など
被爆者-マンハッタン計画-ハンフォード・サイト-核実験の一覧-アトミック・ソルジャー-シースケール-RDS-1-プラムボブ作戦-ウィンズケール原子炉火災事故-ウラル核惨事-セミパラチンスク核実験場-中国の核実験-日本への原子爆弾投下-第五福竜丸-東海村JCO臨界事故-フクシマ50-リクビダートル-原子力事故の一覧-スリーマイル島原子力発電所事故-チェルノブイリ原子力発電所事故-福島第一原子力発電所事故
関連団体
国内
原子力安全委員会-原子力規制委員会-原子力安全・保安院-日本原子力研究開発機構-原子力安全研究協会-日本原子力産業協会-原子力安全基盤機構-放射線影響研究所(放影研、RERF)-放射線医学総合研究所(放医研、NIRS)-文部科学省-経済産業省-資源エネルギー庁-原子力資料情報室-原爆傷害調査委員会 (ABCC)
海外
世界保健機関 (WHO)-国際放射線防護委員会 (IAEA)-原子放射線の影響に関する国連科学委員会 (UNSCEAR)-欧州放射線リスク委員会 (ECRR)-ドイツ放射線防護協会-アメリカ原子力委員会 (AEC)-アメリカ合衆国原子力規制委員会 (NRC)-COMARE-核戦争防止国際医師会議 (IPPNW)
関連記事
原子物理学-原子核物理学-素粒子物理学-量子力学-前期量子論-放射化学-原子力-原子炉-核兵器-加速器-原子力発電-巨大科学-要素還元主義
Category:放射線
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光学
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赤外線
赤外線(せきがいせん)は、可視光線の赤色より波長が長く(周波数が低い)、電波より波長の短い電磁波のことである。ヒトの目では見ることができない光である。分光学などの分野でIR(infrared) と略称される。
赤外線の種類[編集]
赤外線は赤色光よりも波長が長く、ミリ波長の電波よりも波長の短い電磁波全般を指し、波長ではおよそ 0.7μm- 1mm(=1000 μm) に分布する。
さらに、波長によって、近赤外線、中赤外線、遠赤外線に分けられる。それぞれの波長区分は学会によって若干異なり、下記の区分はその一例である(例えば天文学では10 μmくらいまでが中赤外線として扱われることが多い)。
一般的分類[編集]
近赤外線[編集]
近赤外線は波長がおよそ0.7 - 2.5 μmの電磁波で、赤色の可視光線に近い波長を持つ。性質も可視光線に近い特性を持つため「見えない光」として、赤外線カメラや赤外線通信、家電用のリモコンなどに応用されている。
中赤外線[編集]
中赤外線は、波長がおよそ2.5 - 4 μmの電磁波で、近赤外線の一部として分類されることもある。赤外分光の分野では、単に赤外と言うとこの領域を指すことが多い。波数が1300 - 650 cm−1の領域は指紋領域と呼ばれ、物質固有の吸収スペクトルが現れるため、化学物質の同定に用いられる。
遠赤外線[編集]
遠赤外線は、波長がおよそ4 - 1000 μmの電磁波で、電波に近い性質も持つ。赤外線は物体からは必ず放射されていて、この現象を黒体放射と呼ぶ。高い温度の物体ほど赤外線を強く放射し、放射のピークの波長は温度に反比例する。室温20 ℃の物体が放射する赤外線のピーク波長は10 μm程度である。熱線とも呼ばれる。
なお、科学用語としての遠赤外線とは全く関係のない商品等で「遠赤外線の効能」を謳うものが多数存在するが、それらは科学的な根拠のない疑似科学的なものであり、注意が必要である。
その他の分類[編集]
帯域名 波長 光エネルギー
近赤外線(Near-infrared,NIR) 0.75-1.4 m 0.9-1.7 eV
短波長赤外線(Short-wavelength infrared,SWIR) 1.4-3 m 0.4-0.9 eV
中波長赤外線(Mid-wavelength infrared,MWIR) 3-8 m 150-400 meV
長波長赤外線(Long-wavelength infrared,LWIR)
熱赤外線(Thermal infrared,TIR) 8 15 m 80-150 meV
遠赤外線(Far infrared,FIR) 15-1,000 m 1.2-80 meV
特性[編集]
赤外線は大気に吸収され、その一部が地上に届く。
地球放射の一部と太陽放射(0.8 μm 以下。幅が狭いため正確に表現できていない)のスペクトル。青い部分の上下幅が広いところが大気の窓。横軸(Wavelength)が波長、縦軸(Transmittance)が放射の透過率を表す。
水は遠赤外線よりも近赤外線を強く吸収するが、いずれの波長も数mm以上は透過しない[1]。「遠赤外線は体の内部まで浸透し内側から温める」と言われることがあるが、間違いである[2]。
水に対する吸光度は中赤外線および遠赤外線において高く、したがって生体組織(特に、水分を多く含んだ組織)に対しては浅い部分でその多くが吸収される[3]。このような波長のレーザである炭酸ガスレーザ(λ=10.6 μm)やEr:YAGレーザ(λ=2.94 μm)は生体組織の切開や蒸散(いずれも凝固に比べ高いエネルギー密度や位置選択性が要求される)に利用されている。
発見[編集]
1800年、イギリスのウィリアム・ハーシェルにより赤外線放射が発見された。彼は太陽光をプリズムに透過させ、可視光のスペクトルの赤色光を越えた位置に温度計を置く実験を行った。この実験で温度計の温度は上昇し、このことから彼は、赤色光の先にも目に見えない光が存在すると結論づけた。この発見に刺激され、翌1801年にはドイツのヨハン・ヴィルヘルム・リッターにより紫外線も発見されている。
1850年にはイタリアのマセドニオ・メローニが、赤外線には反射、屈折、偏光、干渉、回折がみられ、その性質は可視光と同じであることを実験によって示した。
用途[編集]
熱源として[編集]
カーボンヒーター。ピーク波長は遠赤外線領域で、輻射の大部分が赤外線である。
遠赤外線(熱線)の放射は対象物に熱を与える効果があり、暖房や調理器具などとして利用されている。多くの暖房器具は輻射を利用しているが、暖房効果における輻射の比率には大小がある。主に輻射による暖房器具として、こたつ、電気ストーブなどがある。燃焼を使う器具は温度が高いため可視光の比率が多いが、温度の低い触媒燃焼を利用する器具もある。輻射を利用した調理器具としては電気オーブンやオーブントースターが挙げられる。また塗装の行程で塗装面に熱を与えて硬化させる場合には輻射を利用した専用のヒーターが用いられる。
浄水器や燃費改善剤など、遠赤外線の効果を謳う商品の中には、科学的に実証されていない疑似科学にすぎない商品もある。
センサとして[編集]
詳細は「赤外線センサ」を参照
近赤外線と遠赤外線は、センサ目的に各分野で広く用いられている。
赤外線は可視光に比べて波長が長いため、散乱しにくい性質を利用して、煙や薄い布などを透過して向こう側の物体を撮影するために用いることができる。また目に見えないという特性もあるため、夜間に被写体を近赤外線光源で照らしても被写体に気付かれることなく撮影することができることから、警備・防衛用途や、野生動物の観察・研究用途にも広く用いられている。これらの用途には、主として近赤外線が用いられる。
一方、あらゆる物体はそれ自身の温度によった遠赤外線を出している(黒体放射)ため、遠赤外線センサは、光源が無い場所でも目標を視認することが可能となる。また黒体放射においては、温度に応じて異なる周波数の赤外線が放射されることから、対象物の温度を検知できる。これを利用した技術がサーモグラフィーである。
リモートセンシング衛星[編集]
詳細は「リモートセンシング衛星」を参照
地表や海面の温度を調べるのはもちろんのこと、植生の状況をモニタリングするために近赤外域や中間赤外域(短波長赤外域)が使用される。植生は太陽光の可視域の反射が低く,近赤外域の反射が非常に強いという分光反射特性をもつ。可視赤色域と近赤外域を用いた植生指数が多数提唱されている。
赤外線天文学[編集]
詳細は「赤外線天文学」を参照
赤外線で星や銀河等を観測することにより、他の波長の電磁波ではわからない現象を調べることができる。例えば我々の銀河系中心方向には視線方向に、可視光を吸収してしまう星間物質があるため可視光線では観測できないが赤外線を検出することにより、銀河中心付近の星の分布などを調べることができる。
通信手段として[編集]
赤外線通信 (D901iS)
「IrDA」も参照
近距離赤外線通信規格IrDAの携帯電話への普及により、赤外線通信が一般に認知され、使用されるようになった。電波で通信する方式に比べて、信号が空間的に広がりにくく(回折を起こさず)、障害物があると通信できない欠点はあるものの、それは第三者に傍受されにくいというセキュリティ上の大きな長所でもある。
ザウルスなどの以前の機種では、ASK方式が用いられていた。
また、屋外で使う自動車用ドアロック・ワイヤレスリモコンは周囲の明るい光が妨害源となり赤外線通信には不向きであるので電波を利用するものが多いが、強烈な光に晒されることのない屋内で使われる家電製品のワイヤレスリモコンは電磁ノイズの影響を受けない赤外線を利用しているものがほとんどである。
音の伝送[編集]
音のワイヤレス伝送を行う場合に、電波を使わずパルス変調した赤外線を光源から発信し、受光器で受信して復調する機器がいくつか存在する。家庭用ではヘッドフォンで使用され、業務用ではカラオケのマイクロフォンや同時通訳を聞く際のレシーバに使用されている。
電波と異なり壁を透過しないので外部との混信や盗聴の心配が少なく、マルチチャンネル化も容易で利便性が高いが、一方で送受信器の間に大きな物体があるなど赤外線が届かない条件もしばしば起きるため、使用場所の形状によっては送受信器のうち固定器側について数を増やしたり、人や物に遮られない高所に設置するなどの検討が必要になる。また移動器側も衣服のポケットに入れたり、手で握るなど赤外線を遮らないよう注意する必要がある。受信機に太陽光などの強力な熱線が当たると受信センサーの赤外線が飽和して伝送が不調になる場合もある。
静脈認証[編集]
生体認証の一方式として使用される。皮膚への浸透深度は近赤外線域では数mm(最大6 mm)である。短波長側(0.7 - 0.8 μm)の近赤外光は静脈認証[4]や医療用の一部の検査装置[5]などに利用される。静脈認証は静脈血内のヘモグロビンが近赤外光を強く吸収する性質を利用している[6]。
赤外分光法[編集]
詳細は「赤外分光法」を参照
全ての分子にはある決まった周波数の電磁波を吸収する性質がある。これを赤外線の領域で調べる手法が赤外分光法(IR法) であり、分子内部における原子の振動状態を通じて物質の構造に関する知見を得ることができる。赤外領域の基準振動がスペクトル分析の基本であるが、吸収が大きすぎるため、近赤外領域にある、吸収の少ない倍音、三倍音を観測することもある。近赤外の分光法は赤外に比べ感度が極めて低く、そのため利用が遅れていたが、分析手法の発達により、非破壊検査・測定に利用されるようになった。
熱紋[編集]
詳細は「:en:Infrared signature」を参照
熱紋とは熱源から放射される赤外線の固有の波長分布や形状を指し、熱紋をデータベースと照合することにより熱源を同定することができる。
出典[編集]
[ヘルプ]
^ 赤外線の話- 図5 膜厚が異なる水膜の赤外吸収スペクトル
^ 社団法人遠赤外線協会「遠赤外線とは?・遠赤外線技術」
^ 日本生体医工学会監修「MEの基礎知識と安全管理 改訂第5版」p51
^ マイクロソフト Enterprise Web「IT先進企業 日立製作所」
^ 近赤外線トポグラフィによる脳機能計測 (PDF)(一例)
^ 実用化が進む生体認証技術 (PDF)- 静脈認証技術とその適用事例(沖電気)
関連項目[編集]
近赤外線分光法
赤外線天文学
放射計
赤外線センサ
赤外線計測
赤外線写真
黒体
プランクの法則
ヴィーンの変位則
シュテファン=ボルツマンの法則
レイリー・ジーンズの法則
キルヒホッフの法則
佐久間=服部方程式(en)
量子力学
グローブ温度
色温度
カーボンナノチューブ黒体
非電離放射線
表・話・編・歴
電磁波
← 長波長 短波長 →
電波-マイクロ波-赤外線-可視光線-紫外線-X線-ガンマ線-電磁放射線
紫外線
近紫外線(UV-A - UV-B - UV-C) - 遠紫外線(UVU) - 極端紫外線
可視光線
赤-橙-黄-緑-青-藍-紫
マイクロ波
Lバンド - Cバンド - Sバンド - Xバンド - Kuバンド - Kバンド - Kaバンド - Qバンド - Vバンド - Wバンド
電波
テラヘルツ波 - ミリ波(EHF) - センチメートル波(SHF) - 極超短波(UHF) - 超短波(VHF) - 短波(HF) - 中波(MF) - 長波(LF) - 超長波(VLF) - 極超長波(ULF) - 極極超長波(SLF) - 極極極超長波(ELF)
表・話・編・歴
放射線(物理学と健康)
主要記事
非電離放射線
音響放射力(英語版)-赤外線-光-マイクロ波-電波-紫外線-電磁波-熱放射
電離放射線
自然放射線-環境放射線
単位
吸収線量
グレイ-シーベルト-ラド-レム-レントゲン-カーマ-シーマ-積算線量-等価線量-実効線量
放射能
ベクレル-キュリー-ラザフォード-壊変毎分-比放射能-マッヘ
関連項目
SI接頭辞-物理量
測定
測定器
線量計-電離箱-霧箱-泡箱-原子核乾板-比例計数管-ガラス線量計-フィルムバッジ-固体飛跡検出器-熱ルミネッセンス線量計-サーベイメーター-ガイガー=ミュラー計数管-シンチレーション検出器(シンチレータ-光電子増倍管-硫化亜鉛)-半導体検出器(シリコンドリフト検出器-マルチチャンネルアナライザ)-ホールボディカウンター
確率・統計
ポアソン分布-コーシー分布-ガウス分布-推計統計学-ポアソン過程-指数分布
放射線物理学
原子と原子核
原子と原子核(元素-原子-電子-原子核-素粒子-長さの比較)-原子模型(トムソンの原子模型-ラザフォードの原子模型-ボーアの原子模型)-核子(陽子-中性子)-核種(質量数-同位体-同余体-同重体-同中性子体-中性子過剰核-核図表-天然存在比)-質量とエネルギー(原子量-アボガドロ定数-質量数-原子質量単位-比重-比放射能-質量欠損-特殊相対性理論-結合エネルギー-強い相互作用-弱い相互作用)- 原子・原子核の状態(エネルギー準位-基底状態-励起状態-核異性体-魔法数)
電離放射線の種類
電磁放射線(X線-ガンマ線)-粒子放射線(アルファ線-ベータ線-中性子線(高速中性子)-陽子線-重陽子線-重粒子線-核分裂生成物)
放射性崩壊
放射性崩壊の種類
崩壊モード-アルファ崩壊(ガイガー・ヌッタルの法則-トンネル効果)-ベータ崩壊(電子捕獲-ベータプラス崩壊-二重ベータ崩壊-二重電子捕獲)-ガンマ崩壊-自発核分裂-核異性体転移
放射性崩壊の速度
半減期-崩壊定数-平均寿命-指数関数的減衰
原子核崩壊の図式化
壊変図式-原子核崩壊図
崩壊系列
放射平衡-トリウム系列-ウラン系列-アクチニウム系列-ネプツニウム系列
核反応
原子核反応-反応断面積-核分裂反応(核分裂連鎖反応-臨界量-毒物質)-核融合反応-核破砕反応-中性子捕獲-放射化-放射化分析-誘導放射能
放射線と物質との相互作用
放射線分解-ラジカル-ホットアトム-放射線遮蔽学-光子との反応(光電効果-コンプトン効果-対生成-対消滅-光核反応)-荷電粒子との反応(制動放射-チェレンコフ放射-シンクロトロン放射)-中性子線との反応(弾性散乱-非弾性散乱-中性子捕獲-核分裂反応)
放射性物質
核種-放射性同位体-人工放射性元素-自然放射能-超ウラン元素-アクチノイド-核分裂性物質-崩壊生成物-放射性廃棄物-放射性降下物-身元不明線源-元素合成-同位体効果
データベース
主要な核種の物理的・生物学的半減期の一覧-放射能の比較-半減期の比較-比放射能一覧-核種の一覧
放射線と健康
基本概念
放射線生物学-放射線医学-放射線被曝-保健物理学-レーザーの安全性(英語版)
放射線の利用
放射線源(密封線源-非密封線源)-放射線療法(レントゲン(X線撮影)-ポジトロン断層法 (PET)-コンピュータ断層撮影(CTスキャン))-後方散乱X線検査装置-食品照射-原子力電池
法律・資格
放射線管理区域-放射線管理手帳-放射線取扱主任者-技術士原子力・放射線部門-原子炉主任技術者-核燃料取扱主任者-エックス線作業主任者-ガンマ線透過写真撮影作業主任者-電離放射線障害防止規則-放射線同位元素等による放射線障害の防止に関する法律-核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律
放射線と健康影響
放射線障害-急性放射線症候群-低線量被曝問題-ホットパーティクル-バイスタンダー効果-ペトカウ効果-ベルゴニー・トリボンドーの法則-ホルミシス効果-原爆ぶらぶら病-原爆症-チェルノブイリ・エイズ
関連人物
ユーリ・バンダジェフスキー-ワシリー・ネステレンコ-クリストファー・バズビー-アーネスト・スターングラス-レオ・キンレン-トーマス・トゥーイ-高木仁三郎-小出裕章-中川恵一-山下俊一
放射能汚染
放射性降下物-核の冬-原子力事故-風下住民-集団積算線量-汚い爆弾-放射能兵器-原発震災-臨界事故-環境半減期-除染-放射能汚染対策-CBRNE
放射能被害など
被爆者-マンハッタン計画-ハンフォード・サイト-核実験の一覧-アトミック・ソルジャー-シースケール-RDS-1-プラムボブ作戦-ウィンズケール原子炉火災事故-ウラル核惨事-セミパラチンスク核実験場-中国の核実験-日本への原子爆弾投下-第五福竜丸-東海村JCO臨界事故-フクシマ50-リクビダートル-原子力事故の一覧-スリーマイル島原子力発電所事故-チェルノブイリ原子力発電所事故-福島第一原子力発電所事故
関連団体
国内
原子力安全委員会-原子力規制委員会-原子力安全・保安院-日本原子力研究開発機構-原子力安全研究協会-日本原子力産業協会-原子力安全基盤機構-放射線影響研究所(放影研、RERF)-放射線医学総合研究所(放医研、NIRS)-文部科学省-経済産業省-資源エネルギー庁-原子力資料情報室-原爆傷害調査委員会 (ABCC)
海外
世界保健機関 (WHO)-国際放射線防護委員会 (IAEA)-原子放射線の影響に関する国連科学委員会 (UNSCEAR)-欧州放射線リスク委員会 (ECRR)-ドイツ放射線防護協会-アメリカ原子力委員会 (AEC)-アメリカ合衆国原子力規制委員会 (NRC)-COMARE-核戦争防止国際医師会議 (IPPNW)
関連記事
原子物理学-原子核物理学-素粒子物理学-量子力学-前期量子論-放射化学-原子力-原子炉-核兵器-加速器-原子力発電-巨大科学-要素還元主義
Category:放射線
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